2012.12.29〜31 HFMC冬合宿/南八ケ岳・行者小屋周辺
めまぐるしい天候のもとで・・・
地蔵尾根を登る(2012.12.30南八ヶ岳にて)
はじめに
半田ファミリー山の会第32期冬山合宿は、2012年12月29日〜31日までの二泊三日の日程で実施された。山域は南八ケ岳。行者小屋をベースに赤岳(2899m)、阿弥陀岳(2806m)を往復するという計画で、メンバーは12名。
結果的には、アプローチの日を除いて、二日目三日目は天候は下り坂当初予定した三日目の阿弥陀岳往復は割愛。二日目に赤岳を往復したにとどまった。
入山初日は快晴だったが、途中から気温が下がり始めた。行者小屋では、無風の状態のもとで設営。パウダースノーで整地に時間がかかった。
二日目は曇り。地蔵尾根の稜線から上はガスと風雪。地蔵の頭からはガスで視界のない中を山頂に向かった。赤岳山頂からは、強風の中、文三郎尾根を下山し、昼前に行者小屋に到着。休憩後、小屋の周辺でビーコン操作の練習。天候は雪のち夜に入って雨。夜半に雨は止んだが、明け方から早朝にかけては気温がかなり低下した。
最終日。午前7時には寒暖計は行者小屋で−16℃を指した。ガスの中、いったんは文三郎尾根と中岳のコルに向かう夏道の分岐まで進んだが、積雪の状況と天候の悪さから引き返し、中山乗越の展望台まで往復してラッセルの真似事をした後、撤収作業にかかった。フライシートには氷の粒がびっしりと張り付き、サイドロープは凍って棒状になり、ポールはテント本体が凍って貼りついて抜けず、ポールのジョイントもテルモスの湯をかけて溶かさなければ抜けなくなるほどの低温下の撤収となった。
今回の合宿の目的として「共通の体験を通して生活・行動技術の習得、習熟による登山力量のアップ、会の登山水準の底上げをねらいとする」ことを掲げた。参加メンバー12名のうち半数近くが、冬山は初めてであり、彼らに冬山登山の生活・行動の基本的知識や技術を習得してもらうと同時に、先輩会員には、彼らのサポートや彼らに知識・技術を伝えることを通して自らが「習熟」することがねらいである。
初日の晴天。二日目の風雪とガスの赤岳山頂、午後からの雪と雨。三日目の気温の低下とその中での撤収。三日間ともまったくことなる天候のもとで、それぞれの状況に対応する共通の行動・体験をすることができたのではないかと思っている。今回初めて冬山合宿に参加した新しい仲間たちが、これから「あの時はねぇ…」と誰かが言うだけで、あの地蔵尾根の登りや、山頂までのアップダウン、山頂での強風、露出した岩の上や雪の斜面の下降を思い出すことができる、そんな経験ができたのであれば嬉しいことだ。細かな問題点は、いくらでもあるが、それらは、これからの課題にしていってもらおう。 (文責:洞井孝雄)
【計画の概要】
<メンバー>
[Aパーティ] CL 洞井 孝雄 他 5名
[Bパーティ] PL 板津 彰伸 他 5名
日 程:2012年12月29日(土)〜31日(月)二泊三日
目 的:共通の体験を通して生活・行動技術の習得、習熟による会員の登山力量のアップ、会の登山水準の底上げをはかる。
ルート:美濃戸〜行者小屋〜赤岳・阿弥陀岳(二日目、三日目に往復)
【記 録】
12月29日(土)晴れ
05:30 石黒邸駐車場集合。諏訪湖SAは昨夜来の降雪で一面白銀の世界車で
美濃戸口バス停から美濃戸車まで入る
09:30 赤岳山荘着。
10:00 皆で気合を入れて出発。
10:15 美濃戸山荘着。トイレ休憩。アイゼンを着ける。
10:30 発。沢筋のカラマツの樹林帯を登る。カラマツの落葉が美しい。
11:20 樹林帯の中で休憩
11:30 発
12:35 開けた平地で休憩。青空のはるかに横岳が美しく輝いている。
12:45 発
13:30 行者小屋着。新雪の中にテント設営。雪は、深い所で腰くらいある。
水は小屋の横のパイプから間欠的に吹き出している。横岳、赤岳、阿弥陀
岳がパノラマとなって美しい姿を見せている。
12月30日(日)曇りのち雪のち雨
05:00 起床。
06:40 出発。 メンバーがアイゼン着用に手間取り、時間を食う。
樹林の中の踏まれた雪道を登る。
07:15 尾根上で休憩。寒い。急な雪のついた岩場を慎重に登る。
07:25 発
08:10 地蔵の頭。風が強く、雪もちらつく。休憩
08:20 発
09:10 赤岳山頂。けっこう登山者が多い。雪交じりの突風が吹き視界悪し。
文三郎尾根を降りる。山頂直下でザイルを張る。
10:20 樹林帯に入り休憩。険しい岩場を無事に抜け、ほっとする。
10:40 発
10:50 テント場着。一時間の休憩後、ビーコンを用いた雪上訓練を行う。
12月31日(月)曇り
06:00 起床 リーダーにより本日の行動について説明を受ける。
07:00 阿弥陀岳に向けて出発。
07:25 雪の状態や、これからの天候を考え、阿弥陀岳登頂は割愛、近くの中山
乗越に行くことになる。
08:00 中山展望台。つぼ足歩行、ラッセルの練習などを行う。
08:20 BC着。そのままテント撤収。気温が下がり、あらゆるものがガチガチに凍り付いて、撤収に時間がかかる。
09:30 下山開始。
10:20 休憩
11:30 発
11:40 美濃戸山荘着。
12:00 駐車場着。 (記録: 誠M)
合宿の顛末 洞井 孝雄
早朝、知多半島を出て、恵那山トンネルを抜ける頃には、空は明け放たれて、まぶしいくらいの青空が広がっていた。
美濃戸口の登山口で計画書を提出。
美濃戸山荘前でアイゼンをつけて南沢に入る。積雪はそれほどではないが、その下は氷。気温は高く、しばらく歩くうちに手の指先がぽかぽかと暖かくなりはじめた。私のアイゼンにはスノーシャットがついていない。おまけにプラブーツの底も相当に磨り減っているので雪がつきやすく、気温が高いと、すぐに足の裏がダンゴになってしまう。一歩足を運ぶごとにピッケルで叩いて落とさないと重くて仕方がない。背中の荷と、靴底に下駄の歯のように固まってくっつく雪とで、けっこう疲れる。それでも、だんだんと雪のつき方が少なくなり、沢に出る手前の樹林に差し掛かる前後から一気に寒さが感じられるようになった。急速に気温が下がって、−6度を指している。
樹林を抜けると、横岳が目の前に迫る。真っ青な空と、ほとんど雪のついていない大同心、小同心の姿が荒々しい。真っ白な雪原となった河原を突っ切り、再び樹林に入って、緩やかな登りをほんの少し、で、行者小屋に着いた。
小屋の右手斜面を上がった所に適当なスペースをみつけて、整地をし、三つ並べてテントを張る。パウダースノーなので圧雪が思うようにならないのと、位置的に少々窮屈なのは妥協しよう。
設営後は、各テントで、それぞれに時間を過ごす。気象担当は、午後4時の気象通報を聞いて天気図を作成、それを持ち寄って、天候の動きを検討している。明日は緩い低気圧が日本全土を覆うが、それほど大崩れはしないだろうという見通しであった。明朝、5時半6時半(5時半起床、6時半出発)で、赤岳往復の予定とした。
二日目。6時半、小屋前に全員が集合して出発。小屋の右手登山口から地蔵尾根へのコースを登りはじめる。樹林帯のなかの踏み跡を抜けると、やがて急なはしごの設置された登りになるが、段々に雪が乗っていて、適当な硬さに締っているのでそれほど登りにくくはない。ただし、足の下は一歩踏み外せば、一気に下までもっていかれそうな斜面である。が、登りなのと、太いパイプの手すりも露出しているので、緊張して通過してくれれば問題はないだろう。ハシゴが終わると、露出した岩が現れる。風も強くなり、雪が舞い始めている。ガスに覆われて、地蔵の頭がかろうじて望めるくらいの視界の中を、一歩一歩進んでいく。地蔵の頭の標識脇の少し平坦になった部分でひと息ついたあと、赤岳の山頂を目指す。尾根筋をたどって赤岳展望山荘を通り過ぎると、赤岳への登りにかかる。急な傾斜の岩の上に雪が乗って歩きやすいが、けっこう辛い。やがて頂上山荘の前を過ぎて標高2899mの赤岳山頂に着く。冬合宿デビューのメンバーたちには初めて立つ3000m近い冬の山頂である。
こんな天候にもかかわらず、山頂にはかなりの人が登ってきている。東側で風をよけてひと息入れ、ロープを固定して、メンバーにプルージックで下らせる。
下降を始めると、県境稜線、文三郎側から氷の粒とともに強い風が吹き上げてくる。フィックス部分の下降を終え、文三郎方面へ向かうと、今度は風と真正面から向き合うことになった。あとに続くよう指示して岩場部分の下降を開始した。足下は岩と適度に積もった雪のミックスなので、アイゼンの利きもいい。ひとりひとりが確実に一歩一歩を運びさえすれば、今日の下降はそれほど難しくはない。上部の山腹トラバースを終えて、尾根の下りにかかる。階段状の下降から樹林帯に入ると、やっと風から解放された。登山道の傾斜は強く、なかなかみんなが揃って休む場所がない。広い適地を探して下るうちに、ほとんど文三郎尾根を下ってしまった。分岐の少し手前で一休みし、行者小屋に戻った。
まだ昼前で、時間を持て余してしまいそうである。いったんそれぞれのテントに引き上げ、休憩した後、ビーコンの使い方の練習をした。
ひとしきり、雪中の宝探しが終わって、三々五々、テントに戻る。降雪は止まず、夜半から雨にかわった。
最終日。6時の集合を7時に延ばして出発。周囲は全体がガスにおおわれていて、視界は悪い。文三郎道の分岐まで行って引き返す。中山乗越の展望丘まで往復して撤収、という判断をし、乗越から展望丘までは、トレールのついていない斜面をつぼ足で歩いたり、ラッセルの真似事をして登り、全く視界のないピークで一休みしてBCに戻った。
そのまま撤収準備。行者小屋の気温は−16度。テントのフライシートについた氷を落とすのに一苦労。サイドロープは凍って結び目が解けず、ポールはテントに張り付き、ジョイントが凍り付くなど、昨夜来の雨から一気に気温が下がったことで、撤収に時間がかかった。ザックのショルダーストラップや、ピッケルバンドもがちがちに凍って棒のようになった。指も数本、軽く凍ったようだ。
行者小屋を後にして下山開始。濃いガスの中の下山だったが、途中から少し木漏れ日が射した。下界の空にところどころ青空が覗くようになった頃、美濃戸山荘に着いた。
振り返ると、相変わらず、樹林帯の上は厚い雲の中にあった。