2013.1.1213 北アルプス・西穂高岳
青空と風と      
 

 

 
西穂独標を背に(2013.1.13北ア/ピラミッド・ピークにて)

 

冷てェ!             洞井 孝雄


いやあ、それにしても冷たかった、手の指と鼻の頭が。でも、時おり、強風に叩かれ、稜線付近は盛大な雪煙に覆われることがあったが、真っ青な空と周囲の眺望は、丸山から西穂山頂を往復して戻ってくるまで、隠れることはなかった。
 年が明けて、最初の連休。最近ご無沙汰だった冬の西穂に向かった。メンバーはY、K、K、それに私の4名。日程は1月12日と13日。初日は西穂山荘前で幕営、翌日は西穂まで往復(天候次第、メンバーの状況次第だが)して撤収・下山という一泊二日の計画であった。
 12日は晴れ。高山から平湯を抜け、栃尾、新穂高へと走るうちに開け放たれた空は青く、周囲の雪をいただいた山々を一層白く輝かせる。ロープウエイで鍋平、西穂口へ上がり、アイゼンをつけてスタートする。他のメンバーよりは荷を軽くしてもらっているはずだが、それでもズシリ。なんとか2時間弱で西穂山荘に着いた。早速、設営。テント張りについてはこれまでにも何度か説明したり、幕営経験もあるはずなのに、みんなへたくそである。竹ペグの麻紐の扱いや、雪面への固定ができない、対角線上にサイドロープを張ることの意味や必要性について理解していない…、よくこれで、この季節の西穂に来たい、っていうなあ、そんな思いもした。時間もあり、風もそれほどない条件下の、のんびりした設営だったが、緊張感のないことおびただしい。
 これからの天候は、今夜半から明朝、午後にかけて日本列島はおおむね晴れの予定という予想だったが、夕食の前後から雪が舞い始め、夜半にかけてしんしんと降った。
 13日。明け方には雪はやんだ。外に出てみると、満点の星空である。やあ、予想どおり、いい天気だ。ベーシック・ミニマム、共同装備の確認と、防風・防寒対策に注意すること、という簡単な指示をしてパッキング。アイゼンをつけて出発。
 ほんの数分で風の強さが変わる。丸山への尾根筋はいつもながら風が強い。それでも日の出を狙って稜線で三脚をかまえる登山者もいる。丸山のピーク手前で、白い連なりとその上の空を鮮やかなオレンジ色に染めて太陽が昇った。カメラを出し、シャッターを押す。瞬く間に指先から感覚がなくなる。強い風とともに前方の稜線に雪煙があがり、目の前のピークを一瞬覆い隠す。無雪期は、階段状の緩やかな起伏の、楽しい尾根筋なのに、今は吹きっ晒しのシビアな雪原である。休もうにも、風を防げる場所がない。とにかく前へ進んでいくしかない。尾根の西側についているルートはところどころしか陽が当たらず、寒い。
 やがて、雪の間から少し顔を出した岩の登りになると独標のピークである。いったんコルに下り、岩と雪のミックスした尾根筋を登り返す。ピラミッドピークへの痩せた岩稜帯のアップダウンが続く。吹かれっぱなしで踏み跡をたどり、時おり、倒されそうな強い風で足を止める。
 西穂の山頂直下は急な雪壁になっており、ピッケルのピックを差し込み、アイゼンのつま先を蹴り込んで慎重に登っていく。つるりとやって落ちたら止まるところがない。これまでの疲れも出て、厳しいところだ。雪壁の傾斜が落ち、右側に斜上して岩の間の安定した雪面を登り切ると、西穂高岳の山頂である。ピークに立って握手。しばらく雪の上に座り込む。陽光の下で、いっとき風も弱まり、稜線の先に奥穂、その向こうに槍の穂先、左手には錫杖、笠、右手は常念、蝶、霞沢などがずらりと頭を揃え、その向こうに富士山、後ろはピラミッドピーク、独標、その先に焼岳、足下には上高地…いずれもくっきりしたスカイラインを見せて、私たちを取り巻いている。上空は青空。風の強さ、冷たさを除けば、こんな日に山頂に立たなくてどうするんだ、というほどの絶好の登頂日和に見入る。
 一休みして下降。山頂直下の雪壁は登りより下降の方が難しいし、はるかに危険である。一瞬、ロープを固定しようか、と思ったが、山頂からのコース取りとロープの回収をひとりでするわけにはいかないので、メンバーに「とにかく、喰らいついてこい」という注意をするだけにとどめた。前を歩いていた単独の登山者が、どこから下ろうかと躊躇している。その脇を安定した雪面を確認しながら下った。独標、西穂の山頂直下、いずれも厳冬期にはアイスバーン状になって、ロープ確保することがあたり前のようになっている個所だが、この日は、雪の付き具合、アイゼンの利き具合も絶好の状態で、メンバーたちもなんとか自分で行動ができたようである。
 独標を過ぎた頃から陽光の下での行動になり、身体もいくぶん暖まって、それまで耐えがたいほど冷たかった指先や鼻の頭もなんとか人心地を取り戻した。
 BC到着後、すぐに撤収、下山。荷は重かったが、午後の早い時間に西穂高口まで下ってきた。天気の谷間にうまくタイミングが合い、青い空と風と絶景ともいうべき眺望を自分たちのものにすることができたのはラッキーだった。
 新穂高の駐車場から振り返ると、すでに太陽は雲に隠されてしまっていた。

 

【記 録】
112(土) 晴れ
0500 洞井さん宅 出発
0900 ロープウェイ駐車場着
0910 発
0935 ロープウェイ乗車
1007 西穂高口駅着
1022 発
1047 休憩 
1118 休憩 
1135 西穂山荘着設営
1230 設営終了小屋で昼食
113日(日) 快晴
0530  起床
0645 出発
0705 丸山通過
0800 独標着。休憩
1307 小屋周辺を散策
1350 テントへ戻る
0840 ピラミッドピーク
0949 西穂高岳山頂着休憩
1020 ピラミッドピーク休憩
1109 独標着。休憩
1140 丸山
1152 山荘着撤収
1227 発
1320 西穂高口着