2013.5.3 ハイキング以上 〇〇〇未満?
大ナゲシ、赤岩尾根〜両神山(1724m)
<1583P前衛峰の登り>
<1583Pのトラバース >
「神山」と付く山は険しい! 杉浦 茂治
今回、両神山に行かせてもらいました。前回の明神山の記憶で、「神山」と付く山は、険しいというイメ−ジが強いので、調べました。岳人では、『ハイキング以上、クライミング未満!』と書いてあり、面白いかもと思い意気込んで行きました。
5月2日に7時間半をかけてテントで前夜から行きました。
翌朝の3日、5時に撤収し赤岩登山口に到着し準備、5時40分頃に出発をしました。2分程、廃墟となった家・寮などの横を通って行くと、本当にバリエ−ションなのか?と思うほどちゃんとした案内板が立ってました。そして赤岩峠を目指します。登山道は、至ってきちんと整備されており、歩きやすく、危険箇所は無いのですが、落ち葉が多くて滑りやすいのが気になりました。登り出してから1時間程度登った6時45分頃に赤岩峠へ到着しました。テ−プの案内、道がはっきりと分かるので迷う事は無かったです。ここで一休みと装備を装着し、今日1番の難関と言われる大ナゲシへ向いました。ちょっとの急坂を登って、緩やかなアップ・ダウンの後にP1493を東側に巻き、北にルートを振り、下って、25分程歩いた、7時20分前に大ナゲシ基部へ着きました。安全の為、ザイルで確保をしながら登り、3ピッチで7時40分に頂上へ着きました。途中の2ピッチ目がトラバ−スで右側にちょっとハングした岩の横を通るのがいやらしかったです。天候が良かったですが霞がかっていて遠くまで見えなかったです。7時45分に下って、来た道を戻り8時30分頃に赤岩峠へ到着しました。
次は本命のル−トで赤岩岳山頂をめざします。峠から5分程歩いた8時45分頃に『赤岩岳を巻いちゃうんですか?』の一言があり別道を探す、確かに見た目は赤岩岳の北側を巻く感じに見えました。そしてちょっと南に行くとテ−プを発見!ここだと思い登るが、目の前に岩壁が…!ちょっと驚きました。ここからザイルで確保しながら登攀を開始、ちょうど9時頃の事でした。登る所は東側に面しており、朝なので日陰になって寒かったです。3ピッチで山頂に着きましたが、特に2ピッチ目で、南山の女岩の階段のような所があり登りにくく感じました。途中も岩が冷たくて手がかじかんで感覚が無くなり、高度感も有り落ちたらと考えたら怖く感じました。やっとの思いで赤岩岳山頂へ着き、時間は10時45分、実に1時間45分掛かりましたが、充実感でいっぱいでした。山頂付近は別道らしきものがあり、巻き道から(推測)のがありました。自分にとって今日1番の難関でした。10分程休んで先に進み、鈴鹿の油日岳のようなアップ・ダウンを繰り返し30分程歩いて、P1583の前衛峰で登攀開始、1ピッチで登り、自分では大ナゲシより登り易く感じました、なので今日3番でした。さらに降って残置のロ−プがトラバ−スで張ってあり、そこから3ピッチでP1583を登りました。ここは3ピッチ目の終了点直下、ルンゼ状の所の足元が、落葉と土で滑り易く大変でした。大ナゲシよりきつく感じたので、今日2番です。さらに鈴鹿の油日岳のようなアップ・ダウンを繰り返しP4・P3・P2と進んで行き、14時ちょうどに、P1基部へ着き、最後だと思われる登攀の準備をしました。ここでは25分程かけて2ピッチで山頂へ、途中、岩を抱え込む仕草が、『プチ前尾根だ!』とちょっと感動しました。ここも大ナゲシよりきつく感じました。そこから25分程アップ・ダウンを繰り返しながら、14時52分に八丁峠へ着きました。自分としては、ここから下って行きたい気持ちでいっぱいでしたが、どうせなら両神山へ行こうとなりました。ここからは舗装された道という言葉が当てはまる程歩きやすく、クサリ場の登りや降りが優しく感じました。
八丁峠から西岳まで45分間は、今までが静かだったせいなのか、すれ違う人が多くて銀座のように思えました。そして念願の両神山へ着いたのが17時10分でした。八丁峠から両神山までのクサリ場は29箇所あるという事なので、数えながら行くと、ぴったしカンカン…びっくり…驚きました。
8分程休んで即、下山を開始しました。暗くならない内に林道に出たいので、先を急ぎました。両神山から20分程行った所から作業道に入ってさらに降るが、両神山から1時間が過ぎても林道に着かない…長いなー!と思いつつさらに10分歩いて直下に林道が見え『やっと出た!』とほっとしました。ギリギリセ−フでやり遂げました。今考えると、登攀の準備・登攀技術などもう少し早く行動していれば余裕が出てくるのかなと感じました。山自体も迫力のある山でアップ・ダウンが激しく、さすがハイキング以上、自分にとってはクライミング未満ではなく、クライミングでした。
途中『なんでこんなところに…』と泣き言を言ってましたが、怪我が無く仲間でやり遂げれば充実感でそれも無くなりました。本当にありがとうございました。
ザックに水をしのばせて 矢倉 圭子
2年前の岳人の特集に「両神山」が載っていた。ハイキング以上クライミング未満と岩のバリエーションルート(赤岩尾根)が紹介されていた。アプローチは埼玉のはずれと遠いが、行ってみたい!でも、せっかく行くなら、一般ルートの鎖場満載の八丁尾根ルートも歩きたい。ということで、一日ずつのプランで出したところ、洞井さんに「幕営具持参で通そう」と。しかし、登攀するのに荷が重くてはツライので、思い切ってロングルートになるが一日で通してやってみようと提案。もしもに備え予備日を設けた。洞井さんのOKがでて決行。
当日は、もしも(ビバーク)に備えてザックに非常用の水を2リットルと若干大目の行動食を忍ばせて行った。遠いとは覚悟していたがアプローチだけで7時間近くかかった。着くころにはすっかり暗く不気味で、野生動物と何度も遭遇した。仮眠場所に決めた駐車場には新しいトイレがあり助かった。
翌朝は眠く、二度寝をして、湯も沸かさずに撤収し登山口へ車で移動。登山口は住宅の跡地より入っていくが、これまた人の臭いが残っているような不気味なところであった。下調べをした通りに注意して進む。登山口付近は間違えやすいが、後はしっかりと間違えようもないほどの道が八丁峠までできていた。ゆっくりと九十九折の急登を上がっていくと峠に着く。
ここからは、ザックをデポして大ナゲシを往復する。上り下りをして30分ほどすると目の前が岩峰となる。その岩壁には左に鎖、右にロープがついていた。左の鎖側よりザイルを出し登攀開始!途中、岩壁のトラバース箇所がイヤな感じがした。山頂直下は傾斜も高度感もあるが、ホールドがしっかりあり、マストで洞井さんに確保してもらって登った。
山頂に出ると、晴天の中に山々が出迎えてくれた。感動の瞬間である。帰りは、杉浦さんが先に下り、登りと同様、プルージックで下降した。事前のチェックでは、この計画の中では、大ナゲシが赤岩尾根上で一番難易度が高いと書いてあり、この先は安泰だと思ったのだが、後にそれはとんでもなく甘い考えだったことがわかった。
先は長いと、次は赤岩岳に向かう。赤岩岳岩峰の左へ巻き道を辿るが、「えっ、巻き道を上がっちゃうの?!」という私の一言で、巻き道を少し戻り、黄色い目印から、赤岩岳正面付近より取り付くことになり、緊張の2時間の登攀の開始となった。
洞井さんのリードで、ザイルがいっぱいに延びる。上からのコールでいよいよ私の番だ。プルージックをかけて登りはじめる。途中、ホールドの少ない岩があり、少し立ち往生。プルージックの結び目を上げ、自分も上がるの繰り返しをしながらの登攀は大変だった。やっとの思いで登り、洞井さんの顔が見えたときにはホッとした。次は杉浦さんの登攀。途中からは洞井さんがリードし、私が登っていくと、ラストの杉浦さんを確保するように指示され、私が確保している間に、洞井さんがリードを前に進めていく、その繰り返しで、登っていくことが多かったが、全く大ナゲシより難易度が高いではないか! これではまるでクライミングのルートだ。
苦労して3Pで無事に赤岩登頂。
次の赤岩尾根の核心部といわれるP1583は、前衛峰を登り、P1583基部から右に岩を回りこんでトラバースし、ロープが垂れ下がった岩壁を登る。見上げると垂直に近い岩壁で、かなりの高度感のある登攀だった。
この先のP4〜P2はザイルも使わずに行けるはず。ザイルをしまい、岩場のアップダウンを繰り返す。
P2の核心部チムニーでは「ザイルを出さなくても登れるか?」の洞井さんの言葉に「登れます」と言ったはいいが不安になった。緊張しながら取りついたが、ロープもありホールドもしっかりあり大丈夫だった。P2も無事に通過。
P1では「これで(岩登りのところは)最後だからやるか?」と洞井さんが、ザイルをつけて正面から取りついた。上部では空に浮き上がった洞井さんが見え、気持ちよさそうに手を振っていた。ドキドキワクワクしながら待っていると、コールがあり、いよいよ私の番に。プルージックで登り、身体を空に投げ出すようにして岩の上に立ち上がる。下の杉浦さんを見下ろし、辺りを見渡す。クライミングの素晴らしさをしみじみと感じた。
P1のピークには岩に八丁・上級者コースと記されていた。赤岩尾根は本当に大変なルートだった。
この時点で14時半となり、杉浦さんと二人で八丁尾根は諦めていた。八丁峠に着いたのは、すでに15時をまわろうとしていた。洞井さんより、山頂へ行くぞ、の指示が…。嬉しいけど耳を疑った。山頂まで2時間半、下山に1時間半程かかるということは、6時半に下山?日没ギリギリだ。予定通りいけばいいが、迷った等の場合は…?!
指示が出た以上、先を急がねば。八丁峠からの道はしっかりとしており、赤岩尾根と比べると舗装道のように思えた。山頂まで29箇所あるという鎖場も、皆で数えながら進んだ。鎖場と言っても、しっかりとホールドがあり、鎖なんて無くても通過できた。鈴鹿の油日のように、何度もアップダウンを繰り返し、急いで山頂を目指す。最後29本目の鎖場を登り2時間10分と、予定時間より早く登頂。少し休み、山頂を堪能し下山。先の少し鎖場を下りたところに、ロープで封鎖された箇所を潜って作業道へ入る。しっかりと道が作ってあるが、細く谷底まで見えており、長時間の歩行で足に踏ん張りが利かず、滑り落ちたらと思うと少し怖い。洞井さんのスピードに頑張って付いて行った。途中、踏み跡が不明瞭となりルート外れに気づく。この時間ロスのダメージが大きい。すぐに修正するよう指示あり、戻って印を探す。杉浦さんが即、ルートを見つけてくれて少しのロスで済んだ。日没前にと急いで駆け下りる。まだかまだかと足の痛みを我慢して下るとようやく林道が下に見えた。日没には間に合った。慎重に急下降し、林道で3人が感動の握手を交わした。
「頑張って付いてきてくれてありがとうな」の洞井さんの言葉が嬉しかった。
今回、自身の行きたい山に行くにあたって、下調べから準備をしっかりしたつもりだが、詰めの甘かった部分もあった。しかし、一生懸命取り組んだ結果、この、バリエーションルート?での、いろいろな経験は私の中での大きな収穫となった。ギリギリでの判断・未経験の地での確保の仕方・ルートファインディング等々・・・。今後の私の山行の大きな自信になると思う。
感動の山行ができたことに感謝している。
おれ、ビバークやだからね 洞井 孝雄
最後のピーク、両神山頂に立ったのは17時10分。18時半ころまでに下れれば、日没前に林道へ下りられる、そんな見当での時間との追いかけっこが始まった。山頂から南へ100mほども進むと、右(西)側に「作業道」が下っている。矢倉の事前チェックでは、最近通ったひとのブログに「間違えるようなことはない」とあったとのことだ。「間違えるようなことはない、ということと安全だということとは違うからなあ」と言いつつ、下降開始。明瞭な道がジグザグに急斜面に切られており、ところどころの目印もしっかりしている。ひたすらの急下降で、ほとんど登りのない狭い道だが、足さえしっかりしておれば、これまでたどってきた尾根道よりも数等歩きやすい。途中、開けた尾根上で違う方向へ進んだのに気づいて引き返したほかは、休憩もとらずに下降を続けた。西の山並みの向こうに陽が落ちた。足元が明るいうちに林道まで降りたい、暗くなれば行動速度は格段に落ちる。危険度も増す。後ろも見ないでひたすら下る私の後を二人も離れずに下ってくる。
「おい、道路見えたぞ」
「あー、よかった」
足元の真下に林道が見えている。急な傾斜の尾根からトラロープでふさがれた登り口をくぐって林道にかかる落合橋に降り立った。1時間強の下山。13時間半の行動も終わりに近い。握手。
「本当に一日でやれるとは思いませんでした」
「途中、何でこんなところへ来ちゃったんだろうと何回も思いました」
「まあ、なんとかなったな。足元の明るいうちに降りることができたし・・・」
日本百名山のひとつ、埼玉県の秩父山地の北端にある両神山の計画を打診されたとき、正直ちょっとなめていたところがあって、あまり気乗りがしなかった―みんながよく登ってるらしいし、第一、遠いじゃないか―。最初の「下にテントを張って、赤岩尾根と八丁尾根を二日に分けて往復する」という案に「テント担いで通しでやったら?」と言ったら、「軽装で一日でやりましょう」という提案になり、さらに、「尾根縦走の前に大ナゲシという岩峰へも」と、欲の深い計画にエスカレートしてきてしまった。やりとりのあとで、文献を見てみると、なかなかホネがありそうである。起点の小倉の集落から赤岩峠に登り、まず大ナゲシまで往復、赤岩岳を皮切りに赤岩尾根を縦走し、八丁峠から西岳、東岳、両神山を踏んで下ってくるという計画は、久しぶりにちょっと面白そうな予感がするものになった。
日程は2013年5月2日午後〜3日・4日(予備日)。メンバーは矢倉圭子、杉浦茂治、それに私の三名。
5月2日、14時半に集合、知多半島を出発。明るいうちに中央道を走るのは、ちょっと遠足気分。22時近く、八丁峠道の登山口前の駐車場でテントを張って仮眠。
3日、5時撤収。再び林道を走って、ニッチツの廃屋群の前の路肩に車を止める。廃屋の中を通って赤岩峠への登り口から樹林の中の道へ入っていく。住む人のいない建物に残された破れ障子や毛布などが生々しく、気味が悪い。登り口の注意書きの看板は、これから向かう山域が一般向けのものではないことを想像させる。
天候は晴れ。木漏れ日の中、急斜面にジグザグに切られた道を、一歩一歩ゆっくりと登っていくが、足に堪える。ふくらはぎがパンパンに張ってくる。樹間に覗く青い空をめざして30分ほどで尾根の上に出、根の張った尾根上の道から道は急な斜面のジグザグとなり、それを登りきると、小さな祠のある赤岩峠に出た。谷を隔てて周囲を睥睨するかのように特徴的な岩峰が見える。大ナゲシだ。予定では、ここから往復1時間半。ちょっと手ごわいという話だったのだが。
「登攀具だけつけて、空身で行こうぜ」
登攀具以外の荷物をデポして発。赤岩岳を背にして、西へ続く細い尾根筋の小さなアップダウンを繰り返す。「大ナゲシ→」と書かれた標識から、いったん大きく下って広い尾根。木々を透かして岩壁が見える。基部から右に回り込んだところに鎖が取り付けられており、その上部から左側を巻くようにしてトラロープがつけられている。巻くところが少々高度感があっていやらしい。一応、ロープをつけて登っていく。上部に続く踏み跡からピークへ出ると、素晴らしい眺望である。朝の光の中で、青い空の下の山並みと手前の緑の尾根の重なり、遠くに雪をいただいた山々の白い連なりも見える。思わず、「おおっ!」と声を出したくなる。いい登山になりそうな気分。しばらく景色を堪能して下山。もと来た道をたどって赤岩峠に戻った。
峠の祠の前から赤岩岳に向かう。尾根につけられた明瞭な踏み跡は山腹の左側を巻くようにつけられている。「え、巻いちゃうの?」と矢倉が言う。「なんだ、岩登りたいのか?」と聞くと、顔がほころぶ。少し戻って樹林の中に黄色いテープのつけられた踏み跡から登っていけそうな取り付きを探す。岩壁の基部に上がり、ロープを結んで、右手のリッジ上の岩を巻くようにして登っていく。チャートと呼ばれる岩は硬く、ホールドもしっかりしているのだけれど、途中でホールドを失って立ち往生することになっては万事休すである。下から見上げて、ラインが切れないだろうと見当をつけた方向にロープを伸ばす。ランニングビレイをとれるところはひとつもない。かつてシャモニでグレポンをやったとき、40mのピッチでひとつも支点がないまま登っていくしかなかったときのことを思い出した。岩の弱点から弱点を伝って、進むべきところを自分で選びながら登っていく、困難な登攀ではなかったが、久しぶりに、こんな岩登りをするのは新鮮で楽しかった。ロープをいっぱい伸ばして固定。プルージックで矢倉が続く。「わー、すごい!」とかいいながら登ってくる。笑顔である。ラストの杉浦を引き上げる。なかなかあがってこない。「こえぇ…」などと独り言を言いながら岩と悪戦苦闘している。さらに岩、岩と泥の急斜面から灌木帯の2ピッチ分を登って、都合3ピッチで赤岩岳手前のピークに立った。赤岩岳山頂までは1分足らず。あのまま登ってくれば30分もかからなかったはずなのに、2時間近くも遊んでしまった。
山頂からは尾根上に明瞭な踏み跡がついている。地図をみると、八丁峠までいくつかのピークが続く。それぞれルートファインディングが必要だ、ということだったが、ある意味では登ろうと思えばどこでも登れてしまうので、忠実に尾根を外さずに歩け(登れ)ば、それほど難しくはない。細長い山頂部に続いて、核心部といわれる1583m峰手前の前衛峰が現れる。正面から取り付いてロープを伸ばす。矢倉、ついで杉浦が登ってくる。1583m峰の基部に続くコルに下る一歩が少しいやらしい。八丁峠方面から来たらしい二人パーティーとすれ違った。ロープもなく足取りも少々あぶなっかしい。先ほどから声がしていたのだが、やっとここで姿を見たということは、その先で少々手間取っていたのかもしれない。コルに立つと、正面にカンテが伸びている。登って登れないこともないだろうが、もう11時半近い。右手に回ると、ロープが残置されたルンゼのトラバース、その向こうは傾斜は緩いが結構距離のある岩壁になっていて、ところどころ、残置のロープが垂れ下がっている。一応確保してトラバースし、さらに壁の基部からいっぱいロープを伸ばしてピークに立った。ところどころに、アカヤシオの濃いピンクの花が鮮やかである。まだ、五分咲きというところだが、いい時期に来たのかもしれない。
ここからはP4、P3といった小ピークをたどる。立ち木にテープが巻かれていて「P4」と書かれてある。次の小ピークではテープにP3と書かれていたので次はP2だな、と思っていると、「P3」というプレートが出てきたりする。まあ、まだまだ先は長いということだな、と妙に納得して足を運ぶ。
P2の登り。基部から数メートルの凹角の部分は難なく登ってピークに立ち、P1とのコルに下る。右に巻き道があるが、なんとなく正面から登ってみたいと思ったので、「ここ、やるか?」と矢倉に聞いてみる。もう、岩の部分はこれで終わりだろう。「登りたい」というので、ロープを出して直登を試みる。3bほどの岩の上に立って、さらにその上に張り出した岩を抱えるようにして体を外へ振り出す。難しくはないが高度感がある。岩登りの醍醐味である。乗っ越して終了点。確保をとって、二人に登って来いとコールをかける。矢倉が登ってくる。体を振り出す部分で右手に逃げようとするのを「こら、まっすぐ上がってこい」と声をかける。登りきったあとは杉浦の番である。今度は矢倉が「まっすぐ上がるんだよ」と声をかけている。さらにそのままロープを伸ばしてピークに立つ。ピーク上の岩には、矢印と「八丁尾根」のペイント、足元に「両神山」とペイントされた部分からは西岳、東岳、両神山の連なりが指呼の間に見える。赤岩尾根もこれで終わりだな、という実感。
ロープを巻き、先を急ぐ。P1を下って、祠の前に出、さらに下ると八丁峠である。先ほどまでの細いやせた尾根と比べると急に道の幅が広くなり、足元もやわらかくなったような感じがする。時刻はまもなく午後3時。さて、これからどうするか、である。このまま進んで八丁尾根をやってしまうか、それとも下るか、峠で立ち止まってしばしの思案。
「水2g持ってますから」
ビバークする気満々の矢倉。
「もう降りましょう」
下山モードになりかけている杉浦。
日没のリミットを考えると、許された時間はあと3時間半から4時間。ここから両神山まで2時間半、下る時間を1時間半としてぎりぎり明るいうちに下山できるかどうかというところか。前半に遊び過ぎたツケだ。予備日をとった計画なので、途中で状況判断をしよう。前進の指示を出す。
「さあ、行くぞ。おれ、ビバークやだからね」
今日中に片付けるぞ、と、クギをさすことも忘れてはならない。目が点になった二人をうながして歩き出す。
八丁峠からは鎖場が続く。決していい道とはいえないけれど、これまでの行程と比べると、まるで舗装道路である。赤岩尾根ではたった一パーティーとすれ違っただけなのに、両神山から下ってくる登山者の姿が急に増え、賑やかになった。さすがにこの時間、両神山に向かって歩いているのは私たちだけだが。合計29個所あるという鎖場をひとつひとつ声を出して数えながら通過する。行蔵峠、西岳のピークを通って竜頭神社奥宮の祠を過ぎ、東岳のピークに設置されたベンチで一服。いったん樹林の中に下って、岩の間の道を登り返すと、その先に両神山の山頂の標識が見えた。八丁峠から2時間強で二等三角点と案内板、小さな祠、頭部の壊れた石の仏像などが置かれた山頂に着く。傾きかけた陽が山頂を囲繞する峰々の上部を照らしている。風もなく、1700mの山頂の空気は心地よい。ゆっくりしたいところだが、時刻は午後5時を回っている。下山を急がねばならない。
【記 録】
5月2日(木) 晴れ
14:30 集合・出発
21:50 八丁トンネル北駐車場着。設営・仮眠
5月3日(金) 晴れ
04:50 起床・撤収
05:35 赤岩登山口手前に駐車 5:42発
06:15 支尾根に上がる
06:47 赤岩峠着。登攀具装着 6:55発
07:10 P1493を巻き北にルートを振り下る
07:18 大ナゲシ基部着
07:40 大ナゲシ山頂着 7:45発
08:08 大ナゲシ基部着
08:30 赤岩峠着。休憩 8:37発
08:45 赤岩岳基部で登攀ルートを探す
09:00 登攀開始
10:44 赤岩岳山頂着 10:54発
11:27 P1583前衛峰 登攀開始
11:45 P1583前衛峰ピーク
12:32 P1583ピーク着
12:56 P4通過
13:00 P3ピーク。休憩 13:05発
13:33 P2通過
14:00 P1基部
14:26 P1ピーク
14:47 祠通過
14:52 八丁峠着。 14:56発
15:27 行蔵峠着。休憩 15:33発
15:40 西岳 通過
16:02 祠(竜頭神社奥宮)通過
16:24 休憩 16:29発
16:32 東岳。休憩 16:37発
17:10 両神山山頂着。 17:18発
17:21 作業道に入る
18:24 林道 着
19:00 駐車場 着