2013年8月16日 北八ヶ岳・稲子岳南壁下見

            

 


終了点で

 


< 最終ピッチを登る

 

候補を探して           洞井 孝雄 

8月の頭に出かけた北岳バットレス第4尾根の下見が不調に終わったので、登山学校の研修山行の山域の次の候補を探す必要があった。

「アプローチは2時間ぐらい、5ピッチの短いルートでV級程度ですが、そこそこ本番の登攀気分も味わえます。どうでしょう?」と、東三河の河合さんから提案を受けて、八ヶ岳の稲子岳南壁の下見に出かけることにした。

メンバーは6名。HFMCからは、斎藤伸一(AC)、矢倉圭子(研修生)、それに私(C)。他の会から三島刻廣(AC・あつた労山)、河合美保子(AC・東三河山ぽ会)、小井一裕(研修生・ASC)の顔ぶれ。

半田組は8月15日(木)20時発。この日のうちに唐沢鉱泉に到着して、先行した他会のメンバーと合流して仮眠できるはずだったのだが、中央道を走っているうちに雲行きが怪しくなってきた。諏訪では1時間74mmという観測史上最大の豪雨で、伊奈ICから先は渋滞と通行止め。伊奈から伊北までの間を1時間以上もかけてとろとろと走り、伊北からは一般道を走って、唐沢鉱泉に到着したのは翌日8月16日(金)の午前1時過ぎだった。テントを張る時間ももったいないので車内で仮眠。うとうとしただけで、すぐに出発予定の時間が来てしまった。

先にテントを張って仮眠していた他会のメンバーたちと合流し、5時発。駐車場のすぐ上の唐沢鉱泉の前から登山道に入る。天候は晴れ。橋を渡ってごろごろの岩の道を登っていく。樹林の中の道だが歩きにくい。途中からは大きな岩が積み重なった道となり、河原のゴーロを岩を飛びながら歩いているような錯覚を起こしそうである。渋の湯へ向かう分岐を過ぎ、再び、岩のごろごろの登り。樹間が開けて黒百合ヒュッテの前に出た。ここからは木道の緩やかに歩いて5分ほどで中山峠に着き、みどり池方面へ下っていく。峠の直下は鎖場になっている。急坂を10分ほど下り、左側の「みどり池まで40分、中山峠まで40分」と書かれたプレートが吊られたロープをくぐって、稲子岳方面への踏み跡に入る。大きくガレた斜面の下部を横切って、樹林の中を登ること15分で南壁の基部に出、その裾の部分を右側に回り込むようにして進む。細い草付の踏み跡は岩が不安定で慎重に足を運ぶ。15分ほどで、南壁左カンテの取り付きに着いた。周辺には平たんな部分がないので、洞井−河合−矢倉、三島−斎藤−小井、二つの登攀パーティーごとに固まって登る準備をした。

 最初に私が取りついた。抜けた青空めざして登るのは久し振りだ。1ピッチ目は、「カンテ、浅い凹状35mV」となっている。取付付近に赤いハーケンが打たれている。左上にリングボルト。ヌンチャクで支点を取りながらロープを伸ばしていく。登り切って、さらに回り込むようにして右上部に凹角が続く。なかなか面白い。そのままロープを伸ばしていくと、下から「あと5m!」と声がかかった。ピンのある安定した部分でピッチを切り、確保する。足下に平たんな部分が見える。1ピッチ目の終了点だ。「ほい、しまった。登りすぎた」、もう2ピッチ目の中間あたりまで来ている。「凹角30mV」となっているが、その凹角の部分を登り切ってしまったのだ。二人に同じところまで登ってもらい、リードを河合に交代する。1ピッチ目の終了点に三島パーティーが登ってきている。河合が登り始めてすぐ、「ラクっ」という声が聞こえ、私たちの左脇を小型ザックほどの岩が落ちていき、途中の岩に当たって粉々に砕けて、三島パーティーのいる付近に散って落ちた。私と矢倉は岩の落ちたラインから外れており、三島パーティーはまだ2ピッチ目の登りにかかっていなかったので、難を逃れたが、この2ピッチ目中間から上部は岩屑と砂礫が詰まっていて、どこに足を置いても落石の危険がある。河合がそのまま3ピッチ目(「階段状〜チムニー35mV+」)を登って、矢倉と私を確保。登り切ると、もう4ピッチ目(「ガラ場〜リッジ状のフェース40mV+」)のガラ場である。トップを交代して、落石に注意しながら右側のリッジを登る。支点が屈折しているので、ロープが流れず重い。コールをかけて二人を確保したロープを引き上げるのに一苦労だ。このまま核心部(と言われているらしい)の垂壁を乗っ越すのは辛いので、垂壁下でピッチを切った。二人が登ってきたところで、垂壁に取り掛かる。左上部に残置のスリングがある。これを使えばA0ということになるが、それを掴まず、右側のホールドに立って上部の岩を抱え込んで体を引き上げる。左側はそのままストンと基部まで切れ落ちていて、なかなか次の一歩を思い切って踏み出せない部分だ。さらに、抱えた岩が剝がれそうな気がして、手前に引くのがためらわれたので、上から力をかけるように、と、膝で押さえつけるように乗って終了。膝をつくのはチョンボだが、まあ、仕方がない。終了点から振り返ると、思わずダイビングしてしまいそうなほど美しく波打つ緑の樹林が視界いっぱいに広がっている。

 最後の5ピッチ目(「階段状〜クラックのあるフェース20mV」)は河合のリードで終了。終了点は平たんなガラ場になっている。ここから10数メートル、赤土の草付を登ると、シカよけの弱電流を流した柵が設置された頂稜部に出るが、まずは一休み。ロープを巻いて登攀具を解き、三島パーティーの登って来るのを待つ。天狗の眺望がすばらしいが、次第に空に雲が広がり、時折、稜線を覆うようになった。天候は下り坂のようである。

やがて、三島パーティーも登攀終了。ゆっくりと休んで、草付を登り返し、登山道に戻った。 

中山峠への登り返しは、このコースの核心部?だ。急登を喘ぎながら登って中山峠、黒百合ヒュッテ、そして唐沢鉱泉へと下ってきた。時刻はまだ13時前。「秘湯」に数えられているという唐沢鉱泉の湯につかって帰路についた。  

研修山行の山域は、ここが有力な選択肢のひとつになりそうであった。

 

浮き石                 齊藤  伸一

 稲子岳南壁左カンテに登山学校クライミングコース研修山行の下見に行きました。

 前夜に出発して高速道路を走り諏訪インターを目指しました。途中諏訪付近が豪雨で通行止めの情報が入り手前のインターで降ろされました。高速道路を降りるまでの一時間以上渋滞のなか、現地に無事着けるのか、下見に行くことが出来るのか心配しながら無事に到着しました。予定ではテントを設営して寝るつもりでしたが、渋滞で遅くなり出発まで数時間しか無いため車の中で仮眠しました。

 唐沢鉱泉を出発して、黒百合ヒュッテを通り中山峠を下り取り付きに到着しました。

 1p目はセカンドで登りました。出だしが少し登りにくいですが、そこを過ぎれば終了点まで登り、2p目はトップで溝の間を浮き石に注意しながら登る。3p目セカンドで登るが大きな石がゴロゴロと動きそう、4p目はトップで左のガレ場を通る。右にはリッジのルートがあり、垂壁の手前まで行く。5p目は垂壁を登り、最後の正面のクラックを登り終了しました。

 帰りの中山峠の登り返しは少し辛かったですが、あとは快適に黒百合ヒュッテを通り唐沢鉱泉まで下りました。

 唐沢鉱泉で汗を流し、帰宅しました。

 

八ヶ岳の岩へ                 矢倉 圭子 

 登山学校のCの研修山行の下見で稲子岳の南壁左カンテの登攀に同行させてもらいました。前夜発でしたが、諏訪の大雨に巻き込まれ、余儀無く伊北でインターを降ろされ大渋滞。予定より遅れての唐沢鉱泉入り。テントを持っていったが、車中で仮眠となった。

 翌朝5時に出発。唐沢鉱泉から黒百合ヒュッテまでは急な登りもなく、所々に朽ちかけた丸太が置いてある。天候もよく、いいペースで進んでいき、ヒュッテから中山峠を越えると稲子岳へ急降下。滑らないようにと慎重に下るが、帰りのことを思うと、この勾配にゲンナリする。10分ほど下ると、中山峠へ・・・と白いプレートがある。そこへ入っていくと、きれいにつけられた道が続いている。キラキラの赤テープや赤い布を辿って行くと迷うことなく基部に着くことができた。左カンテの取り付きはここから15分ほど基部に沿っていき、赤いハーケンが目印で分かった。取り付きのスペースは狭く、私たちでいっぱいとなった。

 5P3級程度の短いルートとはいえ、セカンドでも緊張する。1P目は洞井さんのリード。垂直の壁をグイグイ上っていく。1Pの終了点は、さすが八ヶ岳の壁、天狗に硫黄も見渡せ、高度感バッチリである。その後、東三河の河合さんのリード。途中、拳以上の大きな落石があったが、運よく後続のパーティに当たらずにすんだ。この箇所はザレた所や浮石が多く、慎重に細かい石も落とさぬように足を運んだ。4P目は傾斜面を進み扇岩のクラックを登るが、屈曲したルートでザイルがスムーズに流れない。クラック終了点でピッチを切り、引き上げてもらう。次のピッチでは、チビの私は、岩についていたお助け紐に助けられて岩を越すことができた。残置のロープの強度は注意しなければ。最終ピッチは短い垂壁を登り終了。青空の下で休憩し、登攀終了の爽快感をかみ締めた。

 今回、2時間足らずでの登攀。ここは、しっかりと支点が作ってあり整備されているが、浮石等があり落石には注意が必要。いつも危険と隣り合わせである事を忘れずに、これからもクライミングを楽しんで行きたい。

ありがとうございました。

 

【記録】

01:45 唐沢鉱泉Ⓟ着。仮眠

05:00 発

05:50 渋の湯分岐。休憩     06:00 発

06:33 黒百合ヒュッテ着。休憩  06:44 発

06:50 中山峠着

07:00 プレートくぐり稲子岳への道に入る

07:15 南壁基部着。右手に回り込む

07:31 取り付き着。装備つける

08:15 P1取り付き

08:34 P2中間地点まで終了

08:57 P3終了

09:22 P4チムニー下で切る

09:40 P4終了

09:51 P5終了。後続を待つ   10:50 発

10:59 基部に出る

11:11 登山道に出る

11:34 中山峠着

11:39 黒百合ヒュッテ着。休憩 11:53 発

12:07 渋の湯分岐。休憩    12:14 発

12:30 休憩          12:35 発

12:55 唐沢鉱泉Ⓟ着           (記録:矢倉圭子)