第2章

 

ファミリーハイク、ファミリー登山

@ 子供たちだけのパーティー登頂

 

●小学生の分際で疲れたなどと

「ウチの子、この前、山に行ってきてから、エライからもういやだ、って言うんですヨ」

「うーん、エライからヤダ、か。そりゃ、エライのは誰でもいやだわナ。ひーひー言って、一歩ずつ高度稼いで山頂に立つ。エラかったけど、どうだ、エエ気分だろ? そう言ったって小さな子どもにはわからんわナ。エライものはエライ」

「でも、今度からどうしてったら……」

「あんまり小さすぎると、薬も毒になるしなァ。ところで、おタクの子、いくつだったっけ? ナニ? 小学生? だいたいだナ、最近のガキ共はすぐ、疲れたとかナンだかんだ言いすぎなんだよ。生意気だ、生意気。怒ってやれ、怒って」

 こんな手のひらを返すような会話をよく交わすのですが、最近、「ファミリー登山」「ファミリーハイク」などと呼ばれる、いわゆる家族ぐるみ、子連れで山へ登る、というカタチが増えて来たようです。たいてい、オトナの都合や考えで子どもを連れて行くことが多いのですが、オトナが、自然はイイ、美しい、汗を流しながら、自分の足でかちとった山頂からの眺望は何モノにもかえがたい、などと考え、そのことをそのまま子どもに当てハメようなんて、大それたことを考えるところに間違いがあるような気がします。

 私が、小学生の分際で、疲れたなどと・・・・・・考えるのは、こんな例があるからです。学生時代ですが、家庭教師のアルバイトをしていた友人と話していたときのコトです。

「オレ、やんなっちゃったヨ」

「どうしたんだ?」

「イヤァ、バイト先の小学生と話しとったんだが、オレがマラソンの話をしたんだ。走っとると、だんだん苦しくなってくる。しかし、その苦しさをガマンして走り続けるとまたプラトー(高原)状態になってラクになる。勉強もそれと同じで、と、がんばることの必要性を話そうとしたんだナ。ところがコイツは“苦しくならん”と言うんだ。“オマエ、走ってもだんだん苦しくなっていかないのか?”って聞いても、“苦しくない”って言い張るんだ。よくよく聞いてみたら、“ボクは、はじめから苦しくならん速さで走ってるから、苦しくならん”って言いやがるんだ」

 私もあきれて、二人で、日本の将来はいったいどうなるんだろう、と慨嘆したものでしたが、こんな調子の子どもが増えてきているような気がしてならないわけです。ですから、ヘタにおとなの考えを伝えようとしても、なかなか思うようには行きません。

                                    

●コラ、手ェ出すな! 自分で歩かせろ 
 

 こんな例もあります。よく、オカーサンたちが、他のオカーサンを山に誘うときに、

「アラ、大丈夫よ、子どもたちでも行けるんですモノ」

とおっしゃるわけですが、それは自信過剰。正確には「私たちでもいけるのだから、子どもは大丈夫、行けマス」と言わなければイケマセン。日常の運動量を考えれば、どっちが強いかはハッキリしています。前に、私の所属する山岳会で、子どもたちを登らせるときに、

「この子たちは小さいから山頂まではムリだナ」

という意見がありました。最年少四歳ですから、たいていの人なら同意するかもしれません。でも、どうしてかわかりませんが、その時、私の頭の中には“登れるんじゃないか”という確信めいたモノがありましたので、

「ちょっと待った。ムリ、ムリと言うけど、そりゃあ、オトナの側からの見方だゼ。それを決めるのはコドモだ。やってみなきゃあワカラン。登らしたるワイ」

と大見得を切ったのです。大人たちとは別に、子どもたちは子どもたちだけのパーティーをつくる。年齢たて割りで、小学校高学年から低学年、幼児まで含めたパーティーで、その子どもたちの親でないオトナたちを安全のために配置する。オトナたちは、一切手を出さない(ただし、いつでも危険な時は、安全を確保できるような態勢で)。小さな子どもは、年齢の高い子どもに面倒を見させる。親たちは、オトナだけで、サッサと先へ策へと登って行かせる。こんな確認をして。

 さて、当日です。登山が始まりました。後ろ髪を引かれながらも、久々に子どもたちから解放されたオカーサンたちは、ゆっくりとではありますが、亭主のコキオロシ、世間話に鼻を咲かせながら、それでも、子どもたちの視界からは消えてしまいました。残された子どもたちは、高学年の子どもたちのリードで登って行きます。幼児たちも仕方なしに歩きはじめました。途中で、口の中にアメ玉を放り込んでやったり、少し年齢の高い子どもたちに手を引いてくれるように頼んだり・・・・・・いろいろ手をかえ品をかえ、登らせている間に、『オカーサン』とか、何も言わずに泣き出す子どもも出てきます。途中で見かねて抱き上げようとするオトナに、

「コラ、手ェ出すな! 自分で歩かせろ!」

と怒鳴り、

「オカーサン? 山の上で待ってるヨ。がんばって上に登ると、待っててくれるヨ」

などと励まし、突き放すように言ってやります。なんだかんだと言いながらも、結局、子どもたちは、標高九百何メートルかの山頂に、自分ひとりの力で、全員立ってしまったのです。

 このときに、山頂で、今か今かと心配しながら待っていたオカーサンたちに、

「全部自分で登りました。ホメてやってください」

と声をかけました。駆け寄ってヒシッ! と抱きとめたわが子に涙。子どもも涙。感動の御対面〜ン、ではありませんが、見ているこっちもジーン・・・そんな場面ではありました。